前代未聞の力作 おすすめ度 ★★★★★
藤井の主宰する2つのオーケストラ、ウエスト(米国在住ミュージシャンによる編成)とイースト(日本人ミュージシャンによる編成)の演奏をそれぞれCD一枚づつに収録した2枚組の大作。 演奏曲目は、イーストが沖縄音階の「南風」に92年田村夏樹カルテットから「おけさーやんさど」、それに藤井の最も叙情的な名曲「空」。ウエスト側が東ヨーロッパ風と明記された「Exile」、前記92年カルテットのタイトル曲「飛不動」、それに2曲の新作といった内容に加え、四つのパートからなる組曲「Ruin(破壊)」が両オーケストラの競演となっている。 ここで2つのオーケストラの優劣を問うのは、野暮というか愚問だろう。彼我のミュージシャンの背負う文化や日常生活の違いが、藤井、田村のオリジナルを通していかに顕現するかを楽しめば良いし、事実個々のプレイヤーは充分創造性に富んだ演奏を展開している。 藤井の書いた演奏メモの冒頭に「Play anything you want(好きなように演奏してください)」と記されているが、各プレイヤーは自在な即興演奏で藤井、田村のスコアを見事にふくらませている。この点は同じ日本人女性オーケストラ主宰者秋吉敏子が、隅々まで神経を届かせたカチッとした演奏をするのとは大きな違いだ。 それにしても先に触れた秋吉敏子、シュリッペンバッハと日欧混成オーケストラを組む高瀬アキ、そして藤井と、ジャズオーケストラに於ける日本女性の存在は世界に誇りうるものだ。むろん本作もジャズオーケストラの傑作として高く評価されるべきものだ。
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