恐ろしく、濃密な空間おすすめ度
★★★★★
これほど濃密な本は他にはない。そう思わせる書物です。
「右向け右」は戦時中とはいえおそらく他者とはまったく違う空間を生きた青年の世界がおどろおどろしくも美しい。
この体験記エッセイは絶対に誰にも真似はできないでしょう。
「墓」では冒頭からいきなり「亡くなった叔父」が訪ねてくるというところから書き出されます。
単なるナルコプkじゃレシーなどではかたづけられない彼と彼の一族の物語。
在るとはどういうことなのか。
違う世界を覗き込んでみたい方におすすめです。
やさしい視線おすすめ度
★★★★★
この本を読んで感じることは、奇怪なもの、醜悪なものに対する著者の優しい、受容的なまなざしである。このまなざしは、恐らく、著者自身が、自らを醜悪なものの一人とみなしているところから生まれるのであろう。つきつめてみれば、人間は皆醜なものなのだ。自分の中にある醜悪さに感づいている人には、お勧めの本である。
この本にであったのは、今から20年ぐらい前のことだ。それ以来、折りに触れては、この本が読みたくなる。良書である。
ぎりぎりの小説おすすめ度
★★★★★
ここに出てくるのは、あるいは作者も含めて、
みんなどこか屈折してしまったひとばかり。
いろんなものがいっぱいに溢れちゃってて、
心の表面張力ぎりぎりって感じになってて、
もうほんのちょっとの加減でこぼれそうなんだけど、
まあ、なかにはこぼれてしまったひともいるんだけど、
それでも、ぎりぎりのところで、生きてる。
あるいは、生きてた。
そうだよな、それだよな、文学って、と思った。
色川武大のまなざし
おすすめ度 ★★★★★
色川氏の優しくそして辛辣なまなざしによって繰り広げられる短編集。社会の隅の隅のさらにその隅に居る人々のありさまを、これほど生々しく描ける作家は他にいない。淡々とした文体で、しかしながらヴィヴィットな情景を描きだす、息を呑む最高の傑作。