原作に流れるキリスト教的なるものは捨象され、もっぱら日本兵の悲惨さが描写されています。象徴的なことは主人公の田村一等兵が、僚友永松から「猿の肉」を食べさせられる場面です。原作では「肉」の脂肪を味わい、悲しみとともに飲み込んでいます。
市川監督・追悼おすすめ度
★★★★★
「飢餓に苦しむ彼らは“猿”と称して、味方の兵士を殺し、その肉を食べていた・・・。」
というような、あらすじを読めばおどろおどろしく聞こえるが、ひどくグロテスクな場面は描いていない。
しかし、飢えでもうろうと歩き、爆撃で虫けらのように死んで行く兵隊達の姿は、もう動物以下の、人としての尊厳を剥奪された姿だ。
その大地に散らばったたくさんの屍の泥沼の世界の上を、辛うじて命が残って歩く兵士たちの亡霊のような足取り。
人間であるという最低限の存在感さえ希薄で死んだかのようだ。
日本の一部の政治家や勇ましさが好きなマッチョマニアなどは、戦争の一面だけをより強く見ていないだろうかと、ふと思う。
特攻隊の話の映画は子供の時ぼくも観たことがあった。
誤解を恐れずいえば、子供心にも精神的な美が感じられた。綺麗すぎる。
彼らも「野火」を観るべきだと思う。
これも多くの死んだ人や生き残った人の味わった、戦争のなかで起きる人間の尊厳剥奪されたリアルな姿だからだ。
映画の主人公は、野火の煙りを見て「普通の生活をしている人に会いたい、そこへ行きたいと思ったのです」と煙りの方へ歩いて行く。
とうとう出た出たやっと出た!おすすめ度
★★★★★
“ビルマの竪琴”と並ぶ、市川崑監督の傑作戦争映画初のDVD化です。 一般受けするのが“ビルマ”なら、こちらは批評家や通好みの作品―といえるかもしれません。 何しろあのゴダールの映画“女と男のいる舗道”の中で、この“野火”のポスター(しかも日本版)が出てくるそうなのです。 カフェの中での何気ない会話の場面で、フランスの普通のカフェにそんなポスターがはってあるはずがないので、これはゴダールが市川監督に捧げたオマージュなのだろうといわれています。
まず全て日本で撮影されたとは思えないくらいの臨場感が見事です。 俳優さん達もみんなガリガリに痩せていてコワイ。 彼らがパロンポンをめざしてユラユラ行進していくところなどまるで幽霊です。 なんといっても圧巻なのが、主人公が知らずに人肉を食わされそうになるけど、歯が折れて食べられないーという場面です。 船越さんのとぼけた演技も手伝って、ちょっと見にはなんだか笑ってしまいそうな場面なのですが、状況を考えれば笑うに笑えない。 ブラック・ユーモアのきわみともいうべき場面で、怖いんだけどなんだかおかしい、ヒューマニズムなんだけどなんかシュール−という、まさに市川監督の独壇場です。 声も出ません。
たとえどんなひどい目に遭わされようとも、普通の生活をしている人間たちの方へ行きたい−、という主人公が両手を挙げて自分に発砲している農夫たちのほうへふらふらと歩いていくあのラスト−。 彼は死んだのでしょうか。 それとも生きているのでしょうか。 反戦映画としてまさに傑作の名に値すると同時に、コン・ワールドの魅力満載の作品です。 是非見てください。
祝!DVD!
おすすめ度 ★★★★☆
戦争映画ですが、戦うシーンよりも人間描写がメインの映画です。僕は戦争を知りませんが、現実はこんな感じだったんだろうなと思わせるような妙にリアルな白黒映画です。全体では当時の日本兵の悲惨な立場をいろいろな角度から映像表現されているのを観ると感慨深いものがあります。おすすめの映画です。