フィルム・ノワールの代表作にして傑作おすすめ度
★★★★☆
クロード・シャブロル、フランソワ・トリュフォー、そしてジャン=リュック・ゴダールはそれぞれ1959年から60年に長編デビューした。それが新しいフランス映画界の波ヌーヴェル・バーグの誕生でもあった。この3人は実生活でも親友で、みな少年時代から映画好きだった。そしてその後批評家になり、現場経験がほとんどないまま監督としてベビューするという映画史上珍しい存在だった。
この映画は、トリュフォーが新聞の三面記事から取った題材をゴダールに譲り、製作監修をシャブロル、そして監督・脚本をゴダールが担当することになった。全編を通して実際に街頭で撮影が行われ、隠しカメラや車イスを使った移動撮影は、当時非常に斬新に見え、人々を驚かせたモノであったという。
映画スターとしてはクセの強いベルモントが演じる
主人公、ミシェルも意外だった。当時は主人公といえば二枚目が常識だったからだ。その上モラルのないミシェルの生き方は冗談と思えるような軽い演出、当時としては非常に奔放な性描写とよく似合っていた。
特に観客を混乱させたのは編集方法だった。ひとつの連続したショットの中間を、平然とカットしてしまう。
時間的経過を無視したこのスタイルは、時として筋をわからせなくなることもあったが、それは意図的に編集されたものだった。「不自然」な編集スタイルで、これが映画であることを意識させ、物語形式を見事に破壊した衝撃的作品だったのである。「ボニーとクライド」などアメリカのギャング映画を意識していることも興味深い。主人公のミシェルはハンフリー・ボガートに憧れており、会話の中にもアメリカ映画の話が出てくる。ジョン=ポール・ベルモントは「歩いて馬で自転車で」(57年)に映画デビューしたが、
この「勝手にしやがれ」で、スターの座を獲得した。
ジーン・セバーグは57年「悲しみよこんにちは」
でスターとなり、“セシルカット”でも話題を呼んだ。パトリシアが取材に行く作家には、フランス犯罪映画の監督、「海の沈黙」などのジャン=ピエール・メルビルが特別出演している。
ゴダールの長編第1作は、その後の映画界に大きな波紋を投げかけ、ヌーヴェル・バーグの中心として、若手映画作家たちを勇気づけることとなった
画質も作品の印象も、ガラリと変わったリマスター版おすすめ度
★★★★★
デジタル・リマスターが施された「勝手にしやがれ」は、画質がなめらかだ。画面のきめが細かく、わき役の警官が着こなすスーツの光沢までもが伝わってくる。字幕はサイズと明るさが異なるだけで、中身は以前と変わらない。しかし、画質が変わっただけでも作品の印象がずいぶん異なり、たいへん興味深かった。
好みで言えば、私は旧版のほうが好きだ。旧版はこの新版と比べて画面の粒が粗く、細部がつぶれがちではあった。しかし、その画質がラウル・クタールによる手持ちカメラ映像のブレと組み合わさると、生々しさとほのかな渋みがたち現れ、重みのある薫りがかもされていた。コントラストもはっきりしており、あれはあれで、鮮明な画像だと言えた。
今回の「勝手にしやがれ」は印象としてキレイ過ぎ、うす味な感じが拭えない。使用マスターの都合で再生スピードが上がったせいもあり、せかせかして落ち着きがない。
とは言え、この新版が作品の価値をおとしめるものでは全くないし、初めて観る方には何ら問題がないだろう。こちらのほうが断然好きという人もいらっしゃるだろうから、旧版をすでにお持ちの方もご覧になって、比較されてみると面白いのではないかと思う。
先を考えない潔さが・・・。おすすめ度
★★★★★
45年以上前の作品ですが特に古さは感じませんでした。
パリの風景にファッション、登場人物の個性、
それをいっそう惹きたてる音楽、視覚的なお洒落っぽさの中に、
人間の生と死を柱に物語が構成されていると思った。
ベルモンドが演じるミシェル最後の言葉と、瞳を閉じる瞬間が、
あっさりしている様で、物悲しく記憶に残る。
ヌーベル・ヴァーグの本質!
おすすめ度 ★★★★★
今更ながらの話ではあるが、こうして2006年に見直してみると、50年代のパリは印象
よりも随分とワイルドな都市であることに気がつき、当時の息吹を感じるコラージュ、
その空気を切り取ろうと忙しなく動き回るカメラワーク、次々と映し出されるリズム感
ある映像にこそ、時代の新しさを挑発的に創造している当時のパリ、ゴダールを感じる。
セシルカットとステンカラーのコート、ストライプにサングラスといった魅力的なパリ!
それらどこを見ても、この作品の価値は永遠にかわることはないように思える。
そして圧倒的なまでの刹那主義、とりとめのない嘘や暴力と、虚無の中で相手を信じら
れない女性。警官を殺そうがお構いなし、追い詰められ逃げ惑い、すべては気分・・・
時代を乗り越えた映像世界が、現代社会へファッションという記号とともに産み落とした
影響を今になってに再確認することができます。
瞬間、瞬間に見せるスマートでスタイリッシュなベルモンドの身のこなし。不安を感じ
ながらも未来をじっと見つめ続けるセバーグの可憐な瞳。いまだに古くならないパワー
の源泉は、1950年代パリの都市のエネルギーを的確に作品中に真空パックで定着させた
ゴダールのエネルギーだったのかもしれないと改めて納得する作品です。