何度読んでもいたる所で読む手を止め、何かを考えさせる作品です。しかしその何かは文字通り何かに過ぎなくて、時に作品とは無関係の、しかし、決して気が逸れているわけではない、そんな何かに誘われる、強い求心力を持った作品です。
ブンガクの存在理由おすすめ度
★★★★★
好きな作家は?と女の子に聞かれて、最近なら田中小実昌、と答えたらがっかりされた。
つまり、「好きな作家」に対する答えとしては「反則」なのがコミさんなのである。
実際、「好き」なのか、と言われると、自分でも首をかしげるか、「きー」と頭をかき
むしりたくなるのだけど。
なぜなら、ブンガクとか小説とかの一つとしてあるのではなくて、「ポロポロ」はもう
「ポロポロ」でしかないからで、しかも、こういうものがあるためにブンガクなんてもの
がある、と言うしかないような小説なのである。
そういえば昔、「巨泉のクイズダービー」に出ていたコミさんが、正解を当てて賞金が増
えて、儲かったときに「きー」と禿げた頭をかきむしっていたのを思い出す。
このカバーイラストだけは止めてくれ!おすすめ度
★★★★★
コミさんの戦前戦中期の体験を素に書かれた私小説風の話なのだが、作者同様飄々とした文体で描かれるので本邦伝統の私小説的ドロドロ感は表面的には全くない。
それでも人間という不条理の塊を「ロゴス」で描かなくてはならぬ「小説家」としてのあまりにも前向きな「諦観」は「スローターハウス5」のヴォネガットを連想させる。哲学的命題からトイレの落書きまで、呆けたじいちゃんの口からご飯がポロポロこぼれるみたいに言葉が溢れ出る。そういうもんじゃん! なんつって!!
こんなナイスな小説が絶版のままなのは許せなかったので、今回河出で出版されることになったのはとても喜ばしいのだが、この作品はカフカの「変身」同様、具象画をカバーに使って読者に先入観を抱かせてはいけないのだ。これじゃ「裸の大将、戦争へ行く」みたいじゃないか。ってそんなのあったら読んではみたいけど・・・