昔の男性って妻にまかせっきりで家のことは何もしなくてよかったように思われていますが、「ええし」であるがゆえに周りの目を気にしなければならなくて、いろんなことに労力を取られていた次女の夫がちょっと気の毒なのですが、理知的で素敵な人です。
「ええし」が繰り広げる美おすすめ度
★★★★★
あまり使われなくなりましたが、関西では、育ちの良い方の事を「ええし」と呼びます。
本作品は、関西のええしの姉妹の、文学の香りの非常に高い物語です。
その文体の美しさが光り、著者が伝えたい美がストレートに伝わってきます。
著者の求めた美は、三島や川端らのそれとは、似ている部分と、全く異なる部分があります。
著者の美は、よりリアリズムが支配する世界の中で、日本的な美しさを尊んでいます。
この事は、著者の「陰翳礼讃」を読むと、非常によく分かります。
本長編作品の内容を短く要約せよと言われると、困ってしまいます。
物語は起伏には富んでいるものの、全体を見渡すと、結末以外は、目立った起伏は少ないです。
この事自体は、夏目漱石著「我輩は猫である」と、少し似ています。
この事から、本作品の楽しみ方のバリエーションが生まれます。
つまり、前の方の一部、後ろの方の一部、途中から、などなど、どこから読んでも楽しめます。
通読するのが本道でしょうが、どの部分も、興味深い内容で満たされています。
何度読んでも、文学の香りに浸る事が出来る、超傑作です。
日本が誇る最高の文学おすすめ度
★★★★★
美しい日本語による、最高級の物語。ああ、日本語が読めてよかった。日本人でよかった。
900ページを超える長さもあっと言う間です。
粋"すい"おすすめ度
★★★★★
素晴らしい作家の作品を、その作家の"母国語"で読むことができるということは、とても幸せなことだなぁと思った本です。
まさにこの文体が、上方文化の粋を表しているのだと思いました。
ページを繰る手を休めることなく一気に読み終えました
おすすめ度 ★★★★★
中心となる登場人物は関西出身の20代から30代の美しい四姉妹。二番目の姉・幸子の目を通して、未婚の下の二人の妹・雪子と妙子の見合いと恋愛をめぐる騒動が描かれます。時代背景は太平洋戦争突入直前の昭和10年代です。
戦前の古風な家制度に基づいた、伝統的で因習的な恋愛・結婚観の物語です。恋愛相手がいる末妹の妙子は、すぐ上の姉・雪子の相手が決まらないうちは結婚させてもらえません。雪子は幾度も見合いを繰り返しますが、実のところ結婚に対してどういう考えを持っているのか明確に語ることもなく、姉・幸子をやきもきさせるばかりです。
今となっては完全に消滅してしまったかのような価値観に縛られた姉妹たちの数年にわたる顛末を、谷崎は落ち着いた筆致で、時にユーモアをまじえ、また時に残酷なまでに物語を急展開させて描いていきます。900頁超のこの長編小説を私は一気呵成に読み終えました。
戦争をはさんで昭和18年から24年にかけて紡がれたこの物語は、日本の新旧の価値観の痛ましい転換を描いているように私の目に映りました。
上の3姉妹たちが幸せな結婚生活を手に入れて生きることこそこの世の幸福と考える一方で、末妹の妙子は手に職をつけて自分の力で人生を切り開こうとする新しい女性であるかにみえます。
しかし、この新時代の女性の萌芽のようにみえる妙子を、谷崎は決して好意的には描いていません。物語を読み終えたときに、多くの読者は妙子に対して、物語の前半で抱いた印象を裏切られたかのような苦い思いを味わうことになるのではないでしょうか。そこに谷崎流のあやかしき女性の姿を見たような思いがします。