何と言いますか、この本の物語達は、淡々と、物静かに進んでいきます。表題作「蝶の舌」では、すずめ君の「ティロノリンコ!」の叫びに、涙を誘われました。また、他の作品では「時がもたらす知恵」が良かったです。この中に出てくるイェーツの詩が好きですね。
訳の日本語、ことばもすごく美しくて、読むと落ち着く本です。おすすめ度
★★★★☆
私は映画を見てから本を読みました。映画ではほとんど戦争の暗さを感じさせないとても温かい雰囲気の中、最後のシーンに頭を殴られたようなショックを受けたものですが、この本の世界も、ある意味似ているといえると思います。(原作なので当たり前かもしれませんが) 本は短編集ですが、全体を通してはすごく詩的な世界です。全体的にむしろほんわかとした流れであるのですが、それでも作者の鋭さ、敏感な感じが見え隠れし、なんとなく彼の世界にハマっていってしまいます。なんとなくというのも、わたしはこの本は一度読んだだけでは完全に理解することはできなかったからです。ですがこの本は、何回もくりかえして読みたくさせる本であるとおすすめします。
表題作はおすすめ!おすすめ度
★★★☆☆
表題作「蝶の舌」は映像を言葉にしたような、土や緑の匂いを感じさせる作品。まだ政治や社会と対峙していない幼い少年が、初めて大人としての痛みを感じた瞬間を表したような短編でした。
派閥や迫害、そして戦争など現代では他人事のような感のある日本ではわかり辛い部分もありますが、子供の目から見た情景はストレートに響きます。
読み手に委ねられているのか、主人公の「僕」があえて物事に解釈をつけずにいるので、その時間を共有しているような感じが気に入りました。