「権力に対して反抗すること」ってこんなに素晴らしい事だったんだ!と気付かせてくれる作品。観ましょう。おすすめ度
★★★★★
スピルバーグのアカデミー賞狙いだ・・・・という批判がおそらくは「批判の理由の第一」という映画。
ドイツ人実業家にして実在の人物「オスカー・シンドラー」。
彼はナチスが台頭した祖国が戦端を開くと「大戦を大儲けのチャンス」と捉えて「鍋や釜を製造する会社」を設立して賃金の安いユダヤ人を労働者として働かせるようになる。たちまちのうちに「一財産」を築き上げたシンドラーだったが、その一方でユダヤ人に対するナチスの扱いは日毎に悲惨さを増していく。
制圧したポーランドのユダヤ人はゲットー(ユダヤ人の居住区域)に財産を没収されて隔離される。しかし、そのことですらも「更なる悲劇」への序章にしか過ぎなかった。
東部地区には続々とユダヤ人の絶滅を目的とする強制収容所が作られ、ゲットーは解体されて人々は収容所送りとなる。最初はユダヤ人を「単なる安い労働力」としか考えていなかったシンドラーだったが、多くのユダヤ人と関わり、数々の悲惨な場面を目の当たりにしたところで、この時代に他の多くのドイツ人たちがすでに失ってしまっていた「生命の危機に瀕している他者を救いたい」という欲求が自然と、まるで蛇口の壊れた水道から水が溢れ出すかのようにして湧き上がってくるのだった。彼は今までに築き上げた財産を使って、今度はユダヤ人の生命を助けるという目的で「戦時品である砲弾や大砲を作る技術者として利用する」という建前を掲げて自分の工場に多くのユダヤ人を囲い込もうと行動を開始するのだった・・・・。
シンドラーは決して「正義のヒーロー」として描かれていない。最初は「金儲け」にしか興味を示さず、稼いだ金を酒に女に煙草に・・・・と自らの欲望を満たすためだけに使う男だった。
そんな彼がどうして一転して「ユダヤ人の生命を助ける男」となったのか?・・・が、作中ではかなり唐突な印象。収容所や当時のユダヤ人に対する扱いの悲惨さを度々劇中に挿入するため、肝心のシンドラー自身の心の変化が自然な流れの中で描かれていないのがラスト直前の不自然さに繋がってしまうのだ。
ただ・・・私は実質の共同経営者であるところの「ユダヤ人計理士・シュターン」の影響が大きいと見た。彼は劇中ではシンドラーに一度も積極的に「ユダヤ人たちを助けて下さい」とは訴えてはいない。だが、重要な場面では必ずシンドラーに対して「あなたは多くのユダヤ人たちを救えるのにどうしてやらないのですか?」と言葉にならない「心理的な圧力」を無言の中に潜ませるのである。自分の「普段は無口な片腕」からのプレッシャーが迷うシンドラーに否応無く決断と行動を迫らせたのだろう。
シンドラーの行動は「ユダヤ人たちの生命を守る」ことと、そのユダヤ人たちを抹殺しようとしている「ドイツ軍に戦時品を提供する」という二律背反めいた命題であった。
彼の行動は「偽善」だと言う者がいる。果たしてそうか?・・・・・・・・・・・・・・・・・、否。
彼はあくまで自分自身の出来る範囲内の(おそらくは)限界の行動を全力で行っただけなのてある。彼にはユダヤ人を救うための力があった。お金も設備も、そして人脈も。多くのユダヤ人を救うためには「そのシステム」の一切を維持させなければならなかったのである。シンドラーはそのために今までに蓄えた資産を湯水のように投じていく。ありとあらゆる知恵を搾り出していく。
それは・・・・「偽善」から出ての行動だったのか?・・・・・・・・・・・・・・・。これもまた、否。
彼は私財を投げ打ち、ユダヤを助ける「反逆者」として収容所送りになるかもしれないというリスクを犯していた。身の危険を顧ず、私財を惜しまない人間の行動を「偽善」とは謂わない。「生命を賭けられる行動」を偽善で行える者などこの世に存在するであろうか?。
「戦争中は平和な時代なら善人であるところの男すらも極悪人に変える」・・・・・ような趣旨の事を劇中でシンドラーが語っている。要は圧倒的大多数の人間が狂っていってしまう世の中だったのだ。作中でもユダヤ人の遺体を大量に焼く傍らで気がおかしくなって銃を乱射し続けるドイツ人将校の姿が映っている。
多くの人間が人の死に対して鈍感になっていく時代にあって、大多数が救えたのに何もしなかった時代において、彼のとった行動は戦後60年の歳月を経てもなお一際「異彩」を放って今日も現代に生きる我々の心に問い掛けてくるのである。
「戦争とは、平和とは、正義とは何なのか・・・・・・?、と。」
手段は様々あれど「反抗することはかくも偉大なことなのか」ということを教えてくれる作品。一度は観て損は無い。
人類よ凝視せよおすすめ度
★★★★★
40年前、高校3年生の時見た映画「13階段への道」は衝撃という生易しいものではなかった。人間が生きたまま火葬場の焼却炉へ入れられる。終戦間近死人にして焼く時間が足らないため一日1000人以上生きたまま焼かれる場面。負傷したドイツ軍人に輸血する為幼い子供達から一人何百CCもの血を抜く場面。ガス室内部でもがき苦しむ人間。恐らく二度と目にする事は無い映像かもしれない。人間はそこまでやれるのかと恐怖のどん底に突き落とされた思いだった。人間の尊厳?地球上最高の知恵をもった霊長類?何じゃそりゃ。ゾウリムシの方がまだましだよ。ホロコースト‥人類最大の人種差別。いや差別なんてもんじゃないヒトの抹殺処理だ。はて幾多の映像を探し求めたことだろうか。実写は何も解説を要さない。映像が全てをダイレクトに伝える。63年前の事実である。本作中「これは善のリストです。外は死の淵です」のセリフは言葉が出ない、ただ涙が出るのみ。半世紀経った今も殺し合いが行われている。地球はヒトと毒物で汚染され終焉を迎えるのであろうか。今年家族でアウシュビッツへ行く予定にしている。人間が何をしたかを、遺物を、この目で見てみたい。
確かにシンドラーはヒーローだけど…おすすめ度
★★★★☆
戦争を金もうけのチャンスと考え、工場を作り、多くのユダヤ人を労働者として雇い入れ利益を上げたシンドラー。結果的には勇気ある行動をとり、ユダヤ人を救うことにもなるのだけれど、この映画では彼を最初から英雄扱いしすぎているように感じた。その一方で、ユダヤ人を虐待するナチスの軍人や、町から追い出されゲットーに集められるユダヤ人たちに罵りのことばをかけるポーランド人たちは、(実際その通りだったのかもしれないけれど)非常に憎々しく描かれている。
全体的にとてもよくできた映画だとは思うが、もう少しシンドラーの姿が客観的に描き出されていたら、より完成度の高い作品に仕上がっただろう。
良心のめざめ
おすすめ度 ★★★★★
13年ぶりに見ました。
最初は金儲けのことしか考えていなかったシンドラーが,ゲットーの取り壊しの際やその後のナチスの蛮行を目の当たりにして,しだいに良心に目覚めていく様子が,赤い服の女の子の映像を交えながらうまく表現されています。
シンドラーの心の変化が,会計士シュテルンとシンドラーとの関係にも変化をもたらしていく様子も,握手,乾杯等の場面等に表れています。
また,今日,改めてみて,アウシュビッツのガス室の場面等,観客に気をもたせ,注意を引き続けるための工夫がいろいろなところにちりばめられていることに気づきました。
エンディングの場面については,一部からは批判があったこと,すなわち,ホロコーストの結末がイスラエル建国ではないし,ホロコーストの被害がイスラエル建国によって償われるものではないといった批判があったことを思い出しましたが,それはそれとしてやはり見ておくべき名作と思います。
概要
第二次大戦下のドイツ。実業家シンドラーは軍用ホーロー器工場の経営に乗り出し、ゲットーのユダヤ人たちを働かせた。やがて彼は、ユダヤ人たちを強制収容所送りから救うのだった。
スティーヴン・スピルバーグ監督が、念願のアカデミー賞を受賞した大作。ナチスの収容所で命を落とした親族がいるスピルバーグは、監督料を返上してまでもこの映画の製作に取り組んだ。
オスカー・シンドラーを演じたリーアム・ニーソンは、この映画でスターとなり、ナチスの将校を演じたレイフ・ファインズも大きく羽ばたいた。さらにベン・キングズレーらの脇役の熱演も光っている。20世紀における歴史的な出来事を再現した記念碑的な作品といえるだろう。(アルジオン北村)