狂気の渦と冷静な学び。まさに知的格闘家の面目躍如!おすすめ度
★★★★★
SF小説と呼ぼうとファンタジー小説と呼ぼうと、ウェブ世界の進化が想像力を上回る速さで展開しているこの時代に、タイトルになっている全くの「新世界」を書こうとするリスクは相当に大きいものではないかと思う。この点、時代を現代からはるか先に設定し、ウェブというものが死滅している状況にしていることが、そんな時代が現出するに至る歴史の壮絶さも含めて、本書の物語性の豊かさを担保した。
この作家の本はほとんど読んでいる。私の中では『クリムゾンの迷宮』が圧倒的に星5つなので、それに比べると作品としては星4つということになるだろうか。
しかしこの作家は、まるで己の格闘家のような知的体力を試すようにジャンルにとらわれず作品を書き続ける。前作の『硝子のハンマー』は、この作家のファンはまことに意表を突かれる密室ものだった。今回は「新世界」の姿を、どこまで一般の想像を超えるものにできるかに挑戦した感がある。どんなに狂気に満ちた歴史の中でも冷静に生きる方法を学び続ける人間の描き方の中に、この作家がどこか究極的に人間を信頼している様が見て取れるようにも感じた。
そういう意味での貴志祐介の挑戦魂が継続していることに星1つ加えることで、5つにしたい。最新作『狐火の家』はご愛敬として、次作はどんな意表を突いてくれるか。個人的にはノンフィクションもあり得るのでは?と思っている。
ゲーテッドコミュニティへの革命劇おすすめ度
★★★★☆
エンターテイメント小説。呪力をもつ人間がゲーテッドコミュニティを形成して、呪力を持たない動物を支配している世界で起こる革命失敗劇。
呪力=資産と置き換えると現代社会の比ゆともとれるか。
欠陥、物足りないところはある。
「呪力」の機能について疑問符がつく点。
(言語習得などとはレベルが違う)生物学的な抑制の作用機序がなぜ後天的環境によって左右されるのか。
物語の叙述が友人関係=水平関係に偏っており、師弟関係、親子関係=垂直関係の入り込む余地が少ない点。
生物史については極めて詳細に叙述されるにもかかわらず、なぜ呪力を伝達する垂直の人間関係が殆ど描かれないのか。
物語自体はかなり面白い。
この著者ならではの筆致、得体の知れない濃厚な闇のような雰囲気が楽しめるのはこの手のモノが好きな小説読みには嬉しい。
想像力こそがすべてを変えるおすすめ度
★★★★★
想像力こそがすべてを変える。上下巻合わせて1000ページ以上ですが、一気に読みました。
これは読む側の想像力が試される物語であると他の読み手も言っていましたが、まさにそのとおりです。コロニーの中に住む住民はすべて多かれ少なかれ超能力を有しており、そしてコロニーと外の世界の境界には注連縄が張ってあり、コロニーが結界で守られているのです。個人的には主人公にあまり感情移入できないまま読み進んだけど、それはこの主人公が無意識に(?)投げた愚かな石の波紋が、制御できない大きな悲劇に結びついたからだと思う。第3者の起こした事件であれば、もう少し共感できたと思うのだが、そうすると話が前に進まないしね。作者の想像力には脱帽する。特に突然変異した戦闘用バケネズミの数々は本当にスゴイ。最後の悪鬼を倒す計略は、リーズナブルだけど、それまでの重厚さかからすると、ちょっと軽い?かな。
筆者はじめてのファンタジー!出来良し!
おすすめ度 ★★★★☆
1000年後の関東平野の小さな村を舞台に、魔法(サイキック)と呪術を操る人間、
それに遺伝子改変された動物や虫達が織り成す、光と闇のファンタジー。
え?ファンタジー?と聞いて焦る貴志ファンの皆さん、安心してください。
ちゃんと貴志風のおどろおどろしい内容になっています。
ただ、少年少女が主人公なので、やや物足りないと感じるかも知れませんね。
作品全体としてはよく出来ていると思います。
ただ、どうも「この世界をベースに、シリーズを何冊も書いて食い扶持にして行こう・・・」
という邪悪な意思が感じられるので(笑)、マイナス1にしちゃいました。